居酒屋で経営知識

120.ドラッカー「5つの質問」

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

(前回まで:高校の先輩原島にアドバイスをしています。ドラッカーの5つの質問の実践です)

 思わず、原島さんとがっちり握手をした。
 きっと、由美ちゃんが最初から説明してくれと言うのだろうと予想できるほど、身を乗り出してきていた。

・・・・・

「ジンさん。質問してもいいかなあ」

「もちろん。そう来るだろうと思っていたよ。原島さん、由美ちゃんは今、マネジメントの勉強をしてるんです」

「へえ。頼もしいな。自分も早くから勉強しておけばよかったと後悔してるんだ。がんばって」

「はい」

 いつになく由美ちゃんが神妙だ。

「どんな風に実際の会社にアドバイスしているのか、知りたかったんですけど、原島社長さんの会社ではどういうことをしたんですか」

 原島さんが答えた。

「由美さん、まずは、社長というのは止めましょう。性に合わないので。ところで、北野に頼んだうちの会社というのは、親会社べったりで幹部も親会社を卒業する人ばかりなんだ。仕事も親会社の決めたことがほとんどで、自分たちで新しい仕事ややり方をつくったことがほとんど無い。つまり、親会社の流れに任せた従属経営をしていたんだ。私は、そんな会社に諦めかけていたんだが、若い人たちの中に、本当はやる気のある者やたたき上げの幹部にも柔軟な頭をもっている者がいることに気づいたんだ。そこで、北野に自ら前進できるチームにしてほしいと依頼した」

 後は、引き受けた。

「自分も、原島さんの会社に行って話を聞いているうちに、ちょっと他と違う部門に気づきました。小さな仕事ですが、親会社から回ってきたアフターサービスで成果を挙げているところがある。もしや、と思ったんです。そう。実は、親会社がいやがって回してきた仕事に生きがいを感じている部門があったわけです。そして、そこにテクニックだけではないノウハウがあった」

「そうだったな。北野のおかげでそれに気づくことが出来た。しかし、ほとんどの社員は変わろうとも変われるとも思っていなかったんだ。そんな小さな仕事でやっていけると思っていないし、親会社の方針がすべてだと信じていた」

「そこで、原島さん自身の整理と選抜したやる気のあるメンバーに自ら見つけ出してもらうために5つの質問に一つずつ取り組んでもらったんだ」

「5つの質問?初めて聞くわ。どんなものなの?」

「ピーター・ドラッカーが遺した自己評価ツールなんだ。5つの質問に答え、かつ何度も繰り返すことで組織と活動を評価し、見直すことができる」

「ドラッカーね。最近、私の会社でもよく聞くようになったわ。ジンさんがよく引用していたので何冊か読んだことがあるけど、5つの質問は記憶になかったわね」

「最近、『経営者に贈る5つの質問』という本にまとめられて出ているよ。シンプルな質問なんだけど、そのために悩むことになるんだ。みんなが悩むことで自己評価につながると言うわけだ」

 由美ちゃんの学習ノートへの記入がスタートした。それを見計らって続けた。
 
「5つの質問というのはこうなんだ。

(1)われわれのミッションは何か?
(2)われわれの顧客は誰か?
(3)顧客にとっての価値は何か?
(4)われわれにとっての成果は何か?
(5)われわれの計画は何か?

この質問に取り組むことがマネジメントを正しい方角に修正することができるというわけだ」

 しばらく自分のメモを眺めていた由美ちゃんが閃いたように顔を上げた。

「ミッションは、ジンさんがよく言ってるわよね。大海原を航海する船が向かう方向を示す羅針盤だって。その向かう方向を示すものね。そして、顧客は誰かがターゲッティングで、その顧客にとっての価値はニーズということでいいのかな。そして、成果と計画。うーん、どう考えればいいの」

「由美ちゃん、さすが。そういう見方もできるね。そうか、そう考えると、(2)~(4)はマーケティングとも言える。ターゲッティングとニーズの把握とくれば、成果とは自らの強みの活用だね。そして、実行のための具体化が計画になる。そうだ、そうだね」

 原島さんも驚いたように続く。
 
「由美さんの整理は分かりやすいね。全体として捉えると、ドラッカーの質問がよくわかってくる。なるほど」

(続く)

ドラッカーの5つの質問の復習です。
 
(1)われわれのミッションは何か?
(2)われわれの顧客は誰か?
(3)顧客にとっての価値は何か?
(4)われわれにとっての成果は何か?
(5)われわれの計画は何か?

 小説内で(2)~(4)をマーケティングと言っていますが、これは私個人の感覚です。
 
 ドメインと見ることも可能ですね。
 
 一般的な経営理論の流れでは、ミッションやビジョンの策定後、環境分析によってドメインを確定します。そして、全社戦略・個別戦略となります。
 
 無理矢理対応させれば可能かもしれません。
 
 ただし、常にこの質問を問い続けると考えると、ドメインという位置づけよりも、マーケティングと実行であると考えた方がいいのでは、というのも私個人の考えです。
 
 シンプルですが奥が深い質問であると改めて感じます。皆さんも使ってみてください。
 
 余談ですが、これまでの表題としてきた質問は、「われわれ」を「我々」と書いたりしています。表題を短くするための対処ですので了解ください。(上田先生訳では上の表記が正です)
 
(出典)
「経営者に贈る5つの質問」(P.F.ドラッカー、上田惇生訳 ダイヤモンド社)