居酒屋で経営知識

111.ドメインを明確にする

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「へい、いらっしゃい。寒いでしょう。とりあえず、ストーブの近くにどうですか」

「やっぱり冷え込んでますね。ストーブが心地良いですね」

 みやび自慢のストーブは、さすがに薪や石炭ではなく灯油だが、昔のだるまストーブのように円筒形で360度全体に輻射するため、店の中央に置くとみんなが周りを囲むのでいい感じになる。

「最近のストーブというとファンヒーターになってるから電気がないと点かないんですよね」

「そうなんですよ。灯油とかガスを使っているのに、結局電気がないと使えないんじゃ、停電したときにはどうしようもないですからね。自宅でも電池で着火する灯油ストーブにしてますよ」

「うちでは通常はガスファンヒーターを使ってます。燃料を入れる手間がないし、すぐ暖まるから良いんです。でも、単純な灯油ストーブも物置に置いてあって、毎年、10L程度の灯油備蓄しています」

「さすがジンさん。危機管理は万全ですね」

「灯油は毎年ほとんど使わずにガソリンスタンドで処理してもらって新しくすることの繰り返しですからもったいないんですけどね」

「暖かくなってもうちではしばらく湯沸かし代わりに使うので持ってきてもらえば処分しますよ」

「そうですねえ。今年はお願いしようかな」

 冷えた手も温まったので、定位置のカウンターへ移動した。

「燗酒にしますか?」

「お願いします。次は身体の中から温めたいのでね」

「いつもより5度ほど高めにつけました」

「あー、あったまりますねえ。お通しのニシンの昆布巻きも良い味ですねえ」

「お正月の余韻ということでね」

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「それでは、前回のおさらいをしておきます。クロスSWOTで成功要因を検討してもらいました。これが、それぞれの検討結果ですね」

 手元には各チームが検討した結果を一覧にした資料を配付してある。

「脅威に対抗する強みも見つけ出したようですね。弱みについては、今後も見直す必要がありますので、すべて残しておきます。それにしても、機会×強みの部分が面白いですね。他のチームの考え方の違いにも着目してください」

 違いはあるが、大きな方向性は同じであることが見えてくるのが今回の特徴だった。

「それでは、この方向性からビジネスモデルを作るステップへ進みましょう。まず、ドメインを明確にします。ドメインとは何かというのは以前話しましたが覚えていますか?」

 数人が手を挙げた。

「確か、戦う場所という言い方をされていたと思います」

「誰に、何を、どのように、を決めることでした」

「対象顧客を明確にし、その顧客のニーズに対して、何を提供するのか、どのように提供するのが強みとなるのかを明確にすることだったわ」

「皆さん、すばらしいです。最初に言ってました戦う場所を明確にするというのは、見方を変えると戦わない場所を検討するアプローチもあります。どちらにしても、これまで検討してきた顧客・顧客ニーズ・環境分析を元に、ドメインを考えましょう。その際は、先ほども出ました誰に、何を、どのように、という整理の仕方が一番いいと思います」

 現在出されている検討結果から考えられるポイントをまとめてみた。

【顧客】
(個人契約)
年齢:45歳~65歳
所得:700万~1500万 
性別:男性 ※メイン(女性は潜在顧客として将来加わることも予想)
配偶者:なし ※メイン
人物イメージ:自分の人生は自分で決めることに価値を見出しているが、社会的つながりが弱い人

(団体契約)※老人ホーム入居者
年齢:65歳以上
所得:-
性別:男性、女性
配偶者:なし
人物イメージ:老人ホームとの契約の為、人物特定は特になし。但し、メインユーザとなりそうな人としては、「個人の意思で老人ホーム入居を決断した活発な人」、「家族の意思で老人ホーム入居を余儀なくされたが、それなりに楽しんでいる人」と想定。

【提供サービスなど】
(生前)
・自分史の記録、電子出版、キーワード公開によるコミュニティ・グループ支援
・ライフプランニングをネット上で作成。自由なシミュレーションを支援
・遺言作成、死後のシミュレーション(状態別葬儀、遺品、遺産のシミュレーション)
など・・・
    
(死後)
・事前登録者への死亡通知送信サービス
・WEB葬式(生前に確認可・作成支援サービス)
・自分史の死後公開(Web死亡告知と公開用自分史へのリンク解禁)
など・・・

【ソリューション】
・老人介護施設関係への個人向けサービスのカスタマイズ提供が可能である
・特に、自分史の作成へのニーズが高いことが判明
・電子出版と紙書籍としての作成ノウハウ活用できる
など・・・

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「ジン。昨日の研修メモを見させてもらったが、随分具体的になっているな」

 雄二がやってきたので、久しぶりにちゃんこ鍋を注文した。

「ビジネスモデルも見えてきたろう。ただし、Webサービスの作り込みをどうするかだろうな。コミュニティを前面に出したいが、最近のSNSと張り合うことは得策ではないというのが悩みどころだな」

「FacebookやMixiに戦いを挑んでも目指すものが違うと言うことだろう。メジャーなSNSを利用すれば良いんじゃないか」

「さすがだな、雄二。逆に、インフラがすでにできあがっていると考えることもできると言うことだ」

 煎りごまをを銘々のすり鉢ですり出した。食欲をそそるごまの香りが立ち上り、鍋の湯気に混じり合う。

「さあ、ちゃんこでも食べて明日への気力を蓄えようぜ」

「よっしゃ」


《1Point》
ドメイン(戦略ドメイン)

 これまでも何回か出てきていますので、またかと思われた方もいるかもしれません。

 私が、中小企業診断士の試験で一番得たものというとこのドメインの明確化ということです。

 現在のドメインと目指すべきドメインを明確に出来れば、そのギャップを埋めることが、目標として浮かび上がります。

 ことある毎に見直してください。

(1)誰に(Who):顧客
(2)何を(What):製品・サービス
(3)どのように(How):強み、ソリューション...