居酒屋で経営知識

104.ターゲティングの方法

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「お酒はどうしましょう?」

 大将が我々の片口を気にしている。

「大将。獺祭でお願いします」

「さすが。最近随分メジャーになっているんで、売れ行きも良いんですよね」

「外れがほとんど無いですよね。雄二達はどうする」

「もちろん、ジンさんのお勧めで良いわ」

「同じく。酒を選ぶのもターゲティングに近いなあ。産地とかランクなんかからセグメンテーションし、その中で選んでいくんだからな」

「雄二にしては面白いことを言うなあ。なるほど。今度、そういう比喩で話してみるか。全部飲むのは現実的じゃないから、費用対効果を考えながら、自分の好みや他人からの情報を考えて、一点集中するか、いくつかのポイントを攻めるのか、もしくはある程度の幅でまとめていくのか」

「本当だ。今日の説明で、それを言っても良かったな」

・・・・・・・・・(回想)・・・・・・・・・

「それでは、セグメンテーション作業をこの辺で終わりにしましょう。それぞれのグループでやってみたセグメンテーションから次に狙う場所(セグメント)を決めていきましょう。これをターゲティングと言います。まあ、ターゲットを決めると言うことですから分かりやすいですよね」

 一人が手を挙げた。

「セグメントに分けたものから一つを選ぶというのがターゲティングと言うことなんでしょうか。そうしてしまうと、切り方が悪かった場合、間違った方向に進んでしまったりしないのでしょうか」

「そうですね。まず、一つにはそれぞれのセグメントを見て、変だと思った場合は、セグメンテーションをやり直すことが必要かもしれませんね。ただし、切り口がおかしいのではなければ、ターゲティングの部分で修正は可能です。つまり、必ずしもターゲティングで選択していくセグメントとは一つに絞ると言うことではないと言うことです。これをマーケティング・アプローチという言い方で整理してみます。

(1)非差別化マーケティング・アプローチ
これは、細分化したセグメントの全体に対してアプローチするとか、最大のセグメントにアプローチするといった大企業等のアプローチ方法になります。

(2)差別化マーケティング・アプローチ
それに対して、複数のセグメントを選択し、それぞれに個別に対応していくアプローチです。

(3)集中化マーケティング・アプローチ
言葉通り、あるセグメントに特化して攻めていくものです。

このように、人材や資金力などを勘案し、どのようなアプローチ方法が可能かを考えながらターゲットを絞ることになります」

「何か、セグメントを選択していくためのポイントなんて無いのかしら」

「判断条件として視点をまとめた考え方があるので紹介しましょう。

『6R』といいます。

(1)有効な市場規模(Realistic Scale):市場は大きい方がいいが、少なくとも事業が成立する規模を確保できるか?

(2)成長性(Rate of Growth):今後成長が期待できるか?

(3)競合状況(Rival):戦える市場か?

(4)顧客の優先順位(Rank):自社にとって優先となるようなセグメントがないか?

(5)到達可能性(Reach):例えば、地理的に遠いなど。確実にアクセする方法があるか?

(6)反応の測定可能性(Response):効果や満足度など測定・検証できるかどうか。

これらの視点を条件として絞り込んでいきましょう」

「(6)の反応の測定可能性というのはどのようなことを言っているんでしょうか?」

「良いところに目をつけましたね。これは、事業を継続発展させるために必要な条件の一つです。売れたのは良いけれど、どんな相手に売れたのか、売れなかったのはなぜかなどを検討するすべがない場所では次の戦略を打てません。例えば、流通経路が複雑で売上の結果は出るけれど、こちらからトレースできないようなセグメントは選ばない方が良いと思います」

「インターネットで直販する場合は、測定しやすいわね」

「インターネットの強みはそこにあるかもしれないね。では、今回のビジネスプランにおいて、どういうアプローチをするのか考えてみましょう。どのようなセグメンテーションをし、そこからどこを狙うべきかをまとめて提出してください」

・・・・・・・・・(回想ここまで)・・・・・・・・・

「ところで、ジン。彼らのセグメンテーションの変数はどんなものを使っていたんだ?」

「これがセグメントとターゲティングの検討書だ。悪戦苦闘の後がよくわかるよ。最終的に取り上げたのは、年齢、性別、既婚未婚、それと所得レベルも見ているな。ベースは人口動態的変数のようだ。ネット利用やSNS中心などの心理的変数を次の切り口で見ているみたいだ。ネット利用を前提としているようで地理的変数は考えていないし、新しい分野ということで行動変数も無いようだ」

「結構細かく考えてみたの。ただ、ターゲティングの時には年齢をどう切るかで揉めたわ。単純に年代と言っても単純に10歳刻みなどにする意味があるのか?などね。基本的なテーマが未婚の一人暮らしなので、若い頃の未婚と中年での未婚は違う意味になってくるし、高齢者の未婚と言うとき、ずっと未婚の場合と配偶者に先立たれた場合や離婚して一人という場合も考えられるのよね」

「年齢に関しては、一つの目安としてあまり細かく考えても仕方が無い場合がほとんどだね。ただ、ターゲットのイメージを作る上では大事だけど」

「ターゲットのイメージって言うのは、あれだな。確か、ペルソナだったよな」

「雄二はさすがに覚えているか。ターゲティングをしたら、それを個人に落とし込んで、あたかも具体的な一人の人間像として属性を決めるということだ」

「え?どういうこと」

「例えば、早稲田大学政経学部出身、52歳男性、結婚歴無し、都内に2LDKのマンションを購入していてマイカーはプリウス・・・と言うように基本的なセグメントの範囲で具体的な偶像を創りあげるんだ。そうすることで、その後の協働作業時にターゲットの方向性がマチマチになることを防ぐことができるのが一番の目的と言われている」

「じゃあ、次の回までにみんなで作ってみるわ。でも、たぶん、2人になるかもしれないわ。ほら、ここにあるでしょ。本当の一人暮らしというパターンと高齢者になってグループホームなどの施設に入った人という大きく二つのターゲットグループが残ったの」

「うん。この考え方はその後のビジネスモデルで面白い展開になるかもしれない。個人契約と法人契約の二つ考えられるんだ」

「ジンさんの頭の中にはもうビジネスモデルができあがっているってことね」

「さすがにそんなところまではいっていないよ。ただ、このターゲットの選び方を見ているとアプローチ方法が二つになるから逆に面白そうだって思ったんだ」

「じゃあ、期待できそうなのね。みんなにハッパかけなくっちゃ」

(続く)


《1Point》
・細分化した市場セグメントへのアプローチ方法

(1)非差別化マーケティング・アプローチ
これは、細分化したセグメントの全体に対してアプローチするとか、最大のセグメントにアプローチするといった大企業等がつかうアプローチ方法ですね。

(2)差別化マーケティング・アプローチ
それに対して、複数のセグメントを選択し、それぞれに個別に対応していくアプローチです。

(3)集中化マーケティング・アプローチ
言葉通り、あるセグメントに特化して攻めていくものです。

・ターゲティングの判断条件
『6R』を考えながら絞り込んでいきます

(1)有効な市場規模(Realistic Scale):市場は大きい方がいいが、少なくとも事業が成立する規模を確保できるか?

(2)成長性(Rate of Growth):今後成長が期待できるか?

(3)競合状況(Rival):戦える市場か?

(4)顧客の優先順位(Rank):自社にとって優先となるようなセグメントがないか?

(5)到達可能性(Reach):例えば、地理的に遠いなど。確実にアクセする方法があるか?

(6)反応の測定可能性(Response):効果や満足度など測定・検証できるかどうか。

ペルソナ
一般的に「架空の人物像」と言われているようです。
 できるだけ詳細な人物像を作り上げ、その人物が自社の商品・サービスに対し、どんな感情を抱き、どう行動するかなどをシミュレーションしながら、マーケティング上の課題を解決していきます。
これについて、過去に説明したものがありますので興味がある方は以下を参照ください。
http://bit.ly/T8xucs