居酒屋で経営知識

103.ターゲットの明確化

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

アイディアの創出で紹介してもらったヤングの本は俺も読んだことがある。調べて、分析して、考えて考えて、休んでいるときに突然閃くんだというところは、割と同感だった」

「不思議な感覚だよな。なぜか、必死で考えているときには常識的なことしか思いつかないんだが、ふとした拍子に『あ!』って
でてくるのはそれまでとは全く違ったものだったりする」

「私もそれ読んでみるわ」

「今度持ってきてあげるよ。拍子抜けするほど薄い本だけど」

(注:前回紹介したジェームス・W・ヤングの本の話です)
http://amzn.to/SoF1RN )

「お願いします。ところで、私たちはすでにターゲットまで想定してしまっていたんだけど、改めてターゲットを明確化にするというところまでが今日のテーマだったわね」

「今回は問題意識がターゲットにフォーカスしているので、既にターゲッティングは終わっていると考えていたみたいだけど、少なくとも最初にどこから始めるのかを絞っておかないとやることがぼやけてしまうんだ」

・・・・・・・・・(回想)・・・・・・・・・

「ビジネスアイディアの創出について簡単に整理してみました。ところで、これらのアプローチで考えたビジネスアイディアというのはまだ素材でしかないことはおわかりですね。現在の皆さんの頭の中には漠然としたアイディアが浮かんでいる状態だと思います。では、このアイディアからどう実際のビジネスに繋げていくのかまで考えた方はいますか?」

 ほとんどのメンバーが頭を横に振った。

「それが問題だと思うの」

「そういうことですね。我々がここから目指すのは戦う場所を決めることです。この戦う場所をドメインとか、戦略ドメインと言います。そして、それがビジネスモデルの骨子となります。ドメインというのは、三つのポイントで考えることができます。

つまり、誰に、何を、どのようにと言うポイントです。

簡単ですね。でも、実際にビジネスをしていてもこれらを明確にしていないものが多いのも事実です。

今、皆さんは、『何を』についてその素材を見つけました。ただし、それを提供する相手である『誰に』がもっと明確にならないと実際に売れる仕組みである『どのように』が見つからないはずです。

どれでは、『誰に』の見つけ方、絞り込み方を紹介します。

基本的な方法が、セグメンテーションとターゲティングです。

セグメンテーションというのは、市場細分化ともいい、市場全体を何らかの視点で分割して狙うべき顧客を絞って行くための前作業と考えてもらえれば良いと思います。

この分割のための視点を変数といい、どのような変数を使うかでその後の『どのように』が変わってきますので、慎重に考えてください。

一般的な変数を分類すると以下の通りです。

(1)地理的変数:ジオグラフィック変数(地理的基準)
   気候・風土・県民性・都市化の程度など

(2)人口動態的変数:デモグラフィック変数(人口動態的基準)
   年齢・性別・職業・所得レベルなど

(3)心理的変数:サイコグラフィック変数(心理的基準)
   ライフスタイル・非公式所属集団・パーソナリティ

(4)行動変数:アクティビティ変数(行動変数的基準)
   製品に対する知識・態度・使用頻度・購買パターンなど

例えば、店舗で販売している小売業を考えてみます。

店舗販売を考えると、(1)地理的変数が重要になります。店舗に来てもらうわけですので、どのくらいの範囲(距離)が自分の店舗にとっての主要な顧客となってくれそうかという視点で考えることになると思います。

また、自社の扱う製品によっては、(2)の性別や年齢などで分類できるかもしれません。

しかし、小売業でも店舗販売でなく、通信販売を考えるとどうなるでしょう。

(1)の地理的変数の考え方が大きく変わります。当然、通販ですから、顧客に足を運んでもらう必要がなくなりますので、住居との距離などをあまり考えなくても良くなりますね。

(2)の年齢や性別なども変化してくるかもしれません。時間に関係しなくなりますので、仕事をしているか、専業主婦か、などの変数はあまり関係が無くなるかもしれません。

(3)の心理的変数はいかがでしょう。ライフスタイルは影響が大きそうです。考えている製品・サービスが自然志向であれば、ライフスタイルで細分化してみる必要があるでしょう。

単純に自然志向のライフスタイルか否かで二つに分けた場合、もちろん自然志向が対象となりますよね。

(4)の行動変数だと、例えば、PCやスマホなどを扱っている場合、多くの知識を持っているかどうか、流行に敏感かどうか、などで行動が変わってくるという見方です。

これが、基本的なセグメントの考え方になります。

これらの変数を組み合わせて、全体の市場を分割していく作業がセグメンテーションと言うことになります。

これまでの話から、簡単なセグメンテーションの例を作ってみます。

そうですね。先ほどの自然志向の製品を通販で売ると考えた場合、

(1)地理的変数は考えなくてもいいかもしれません。
(2)の人口動態的変数では、まずは、性別で分けるのがいいかもしれません。ただし、単に男性・女性だけでなく、未婚・既婚や年代、仕事をしているか否かなどの切り口で分けていくことが考えられます。
(3)の心理的変数は、例えば、自然志向と都会志向などが考えられますか。
(4)の行動変数はいかがでしょう。必ずしも当てはまらないかもしれませんね。

このようにあれやこれや考え、マトリクスなどの図にして考えてみるといいでしょう。

ここまでの考え方で、それぞれ作ってみてください」

・・・・・・・・・(回想ここまで)・・・・・・・・・

セグメンテーションは、俺の創業前に随分考えたよな」

「雄二の会社の時は、ITの向かう方向があまりに複雑だったので何度も練り直したのを覚えている」

「俺は、変数が良いとか悪いとか考え出すと切りがないので、まずは、考えられる変数すべてで、うちにとっての顧客になり得るか否かを判断できそうかどうかで取捨選択したな」

「そうだった。それだけで、1ヶ月くらいかかったんじゃないか?」

「ああ。年代をどう分けるかだけで随分迷った。でもなあ。実際にセグメンテーションがうまくいったかどうかより、可能性のある市場を分析していくという経験ができた方が大きかったかもしれない。正直言うと、事業を興してから、そのセグメンテーションやその後のターゲットとは全く違ってしまったんだ」

「そういうこと。まず、最初に徹底して市場を考え、対象顧客を考えることは絶対的に重要だけど、必ずしも考えたとおりにならないと言うことは忘れてはいけないだろう」

セグメンテーションも、実際に事業を始めてからも、常に見直すべきだな」

「みんな苦労していたわね。ただ、市場を切り分けるという考え方をすることは面白かったみたい。これまでの業務では、顧客って既に決まっているような気になってしまっていたのね。改めて考えると既存顧客についても見直してみたくなったわ」

「そして、それからターゲティングになるとますます悩むことになる」

(続く)


セグメンテーション(市場細分化)の方法

セグメンテーション(市場細分化)の基準として、一般的なものは以下の通りです。

1)地理的変数:ジオグラフィック変数(地理的基準)
   気候・風土・県民性・都市化の程度など

2)人口動態的変数:デモグラフィック変数(人口動態的基準)
   年齢・性別・職業・所得レベルなど

3)心理的変数:サイコグラフィック変数(心理的基準)
   ライフスタイル・非公式所属集団・パーソナリティ

4)行動変数:アクティビティ変数(行動変数的基準)
   製品に対する知識・態度・使用頻度・購買パターンなど