居酒屋で経営知識

71.ソーシャル・マーケティング

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「いらっしゃい。毎度」

「・・・社会的・・・ソーシャル・・・SNSと何が違うんだ・」

 雄二がブツブツと独り言を言っている。

「雄二、どうした」

「おお、ジンか。いいところに来た。由美に授業の内容を送ることになっているんだがよくわからなくなっていたところだ」

「いいところって、授業を受けた内容なんだから自分でできるんだろ」

「まあ、そう冷たいことを言うなって。1回の授業で全部出来たら学校も教師もいらなくなっちまうぞ」

「?どんな理屈だ。まあ、俺は飲みに来たんだから簡潔に頼むぞ」

「最近優しさが無くなってきたなあ。由美が顔を出さないせいならいいが」

「何をブツブツと。まずは、乾杯」

「おう」

 ジョッキを半分くらい飲んで一息ついた。
 
「で、今日のテーマは何だった?」

「マーケティングで出てきたのが、ソーシャルマーケティングっていうところだ。最近のはやりだな、ソーシャルネットワークとか」

「なるほど。マーケティングの基礎編か。ソーシャル・マーケティングって言うけど、結構古いんだぞ。アメリカでは、1960年代が起源になっているらしい」

「あ、それで、学生運動とか消費者運動とか書いてあるんだ」

「その時代だ。元々は、アメリカで進んでいた社会的な活動を行っている非営利組織に、営利組織で活用されてきたマーケティングの発想を適用したことが始まりと言われている」

「非営利組織っていうとNPOってことか」

「アメリカでは巨大組織として教会や病院や学校が非営利組織の典型と考えるといい。その辺が日本的な感覚と違ってくるところだ」

「教会や病院・学校にマーケティングか。教会でマーケティングって言ってもピンとこないが」

「例えば、4Pの考え方を取り込んで、教会の提供するサービス、寄付などの対価、各種イベント開催やそれらのつながりを検討したりするということで、自分たちの目的に向けた活動を整理する手法となるんだ」

「なるほど。それが社会的な活動団体の活性化にでも繋がればハッピーってことか。でもそれをわざわざ診断士の教科書に載せる意味があるのか?」

ソーシャル・マーケティングには別の側面もあるんだ。それは、最近でも良く言われる社会的責任やコンプライアンスといった社会的な視点を営利組織である企業に盛り込む考え方だ。これも、同じ頃からある考え方なんだ」

「なるほど。社会的な非営利組織に営利企業のマーケティング視点を導入するという面と営利組織に社会的な視点でマーケティングを運用する面を合わせてソーシャル・マーケティングっていうわけか。よし、それを由美に教えてやろう」

「やるじゃ無いか。今回は寝てただけじゃなさそうだな」

「まあな。確かにそんなことを言っていたってことを思い出した」

「一応付け加えておくと営利組織のソーシャル・マーケティングには、社会責任のマーケティングと社会貢献のマーケティングの二つがあると言われている」

「ん?社会責任と社会貢献?」

「社会責任は良く言われるCSRとか製品の安全性確保、環境への配慮などで、社会貢献は地域活動の支援や震災などへの従業員でのボランティア活動などを言うんだ」

「ああ、なるほど。そういうこともマーケティングとして考えるものなんだな。やっぱり大変だ」

 ひじきの煮物をつまみながら、居酒屋のカウンターでの会話としては違和感があるかもしれないなあ。

「ところで、たまには由美ちゃんを誘って花見をしないか」

「ははーん。由美と会ってないもんだから俺を出しにしようとしているな。まあ、いいが。由美もたまには息抜きをしないとのめり込む方だからな」

「今週末にでもやるってことで連絡するよ。ただし、桜の下で勉強会だ」

「ええー。やっぱりそうなるのか」

 
(続く)


《1Point》
ソーシャル・マーケティング

 大きく捉えると社会との関わりをメインに据えたマーケティングと言えるでしょう。
 
 まずは、社会的な活動をしてきた非営利組織の活動の活発化を推進するためのマーケティング手法の導入から始まり、批判を受けることが多くなった大企業が社会的な発想を取り入れるという流れで発達してきました。
 
(1)非営利組織のマーケティング
(2)社会志向のマーケティング

の二つに分類されます。

また、社会志向のマーケティングは、
1)社会責任のマーケティング
2)社会貢献のマーケティング

の二つに分類されます。