居酒屋で経営知識

34.キャッシュ・フロー計算書(3)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

(前回まで)

 居酒屋みやびでジンと山口君が営業キャッシュフロー計算書について確認してきましたね。これは、間接法という方法で他に直接法もあるのですが、そちらは興味を持った人は調べてみてくださいということにします。

(営業キャッシュフロー)=(税引前当期純利益)+(減価償却
費)-(売上債権の増加額*)-(棚卸資産の増加額*)+(仕
入債務の増加額*)-(法人税等支払額)

でしたね。

(ここから)

 クリスマスイブ。
 みんなの予定がどうなっているのかわからないが、とりあえず、誰も誘わず、事務所を出てきた。

 雪が降りそうな空を見上げながら、商店街の入り口に近づいていった。何となく、今夜は自宅で過ごそうかなと考えていたのだが、携帯が鳴った。

 珍しく由美ちゃんの電話だ。

「電話してくるなんて珍しいね」

「ジンさんは、メールだといつ見るかわからないから」

「まあ、それがメールだと割り切っているからね。ということは、急用?何か、大変なこと?」

「大丈夫。それはないんだけど、ジンさんは今日もみやびに行くのかなって。ほら、クリスマスイブだし、もし、私一人で行って、誰もいなくても寂しいかな、なんて考えたの」

「クリスマスイブ、か。実は、今日は、みやびはパスしようかって考えていたんだ」

「あ、別件があったのね。ごめんなさい。また、メールするわね」

「そうじゃないんだ。理由はないんだけど、部屋で飲むのもいいかなって、やっぱり、クリスマスのせいかなあ」

「そうなんだ。じゃあ、ジンさんの部屋に押しかけちゃおうかな。これからだと、大層なものを料理する時間は無いけど、簡単なものなら作るわよ」

「そりゃ、うれしいね。そうしよう。俺は、商店街のケーキ屋さんで小さめのケーキを買っていくよ」

「え?いいの。うれしい!チキンがいいわよね。ワインが飲みたいから買っていくわね」

「ワインは、ニュージーランドのピノノワールがあったはずだよ。お薦めなんだ」

「そうかあ。ジンさんは、ニュージーランドも好きだったわね。どうしても、日本酒のイメージが先にあって、ワインを飲む国に結びつかないわ」

「まあ、普段はそうだからね。じゃあ、早めにケーキを買って、部屋に戻ってるね」

「ええ、私も、そんなにかからないで行くわ」

 ケーキ屋さんでケーキを買うと、部屋へ急いだ。

 ダイニングテーブルにクロスを掛け、レタスやパプリカ、キュウリで野菜サラダを作ったところで、由美ちゃんが到着した。

「ジンさん、チキンじゃなく新鮮なラムチョップがあったので、今日はこれをメインにしましょ。スープは缶詰のクラムチャウダーで許してね」

 こうして、突然のクリスマスらしいディナーになった。

「由美ちゃんとこうしてワインと肉っていうディナーは初めてだね」

「思い切って電話して良かったわ。前にここに来た時は、診断士の試験の追い込みで、コーヒー飲むのが精一杯だったけど、ジンさんらしく料理しやすいキッチンなのがよくわかったわ」

 新鮮なラムチョップは、くせがなく、ピノノワールのワインによくあった。

「山口君もよく頑張っているよ」

「今、どんな内容なの?」

「ちょうど、営業キャッシュフローの計算を説明していたんだ」

「わー。そういえば、あの時も、ここで、財務諸表を並べて、キャッシュフローの計算をしていたのよ。絶対出るからって」

「ああ、そうだったね。奇遇だ」

「営業キャッシュフローと投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローを足した合計が、B/Sの現金・預金の増減額と同じになるというポイントで検算した記憶があるわ」

「その点は試験対策上重要だからね」

 由美ちゃんと雄二が必死で頑張っていたのが、すでに1年以上前になったんだと思うと、時の流れの速さに驚かされる。

「ラムチョップって、もっとくせがあると思ったけど、結構シンプルなおいしさだね」

「ローズマリーがあったから、ニンニクとあわせて香り付けしたくらいなの。肉屋のおばさんが、オリーブオイルで強火で焼くだけで十分だって言ってたけどホントね。新鮮さが一番だって言ってたわ」

「ラム肉にニュージーランドワイン。ニュージーランドへ遊びに行きたくなってきたよ」

「いいわね。私も行ってみたい」

「いつか行こうか」

「うん」

(続く)


《1Point》
・クリスマス特番になってしまいました。

 一応2点メモしておきます。

1)営業活動によるキャッシュフロー(営業キャッシュフロー)
2)設備投資によるキャッシュフロー(投資キャッシュフロー)
3)財務活動によるキャッシュフロー(財務キャッシュフロー)

のうち、1)+2)をフリーキャッシュフローと言います。

 つまり、本業である営業活動で得たキャッシュフローと事業を進めるために投資に使ったキャッシュフローの差額が、経営者にとっての武器とすることができる資金であると言うことができます。

 また、キャッシュフローの検算について語っていますが、すべてのキャッシュフローを合計すると、貸借対照表の現金及び預金の増減額と同じになります。
 これで検算が出来ますし、試験などの場合、項目で曖昧な点があった時は、逆算で求めることも可能性がありますので覚えておいてください。

「営業CF + 投資CF + 財務CF の合計値」=「貸借対照表の現金および預金の増減額(期末-期首)」

 メリークリスマス!