居酒屋で経営知識

33.キャッシュ・フロー計算書(2)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

(前回まで)

 居酒屋みやびでジンと山口君がキャッシュフロー計算書について確認していましたね。計算方法として、
(1)損益計算書(P/L)の税引前利益に減価償却費を加える
(2)貸借対照表の(B/S)の売掛金・支払手形と買掛金・受取手形に注目する
ところまで話が進んでいます。

(ここから)

「ジンさん。そうすると、売掛金は未入金ですからマイナスして、支払手形は未出金だからプラスと考えていくんですね」

「山口さん。そうはいかないんですよ」

「え?違うんですか」

「それが決算年度で計算することから売上計上と入金回収のズレの問題なんですよ。たとえば、今のB/Sの売掛金がすべて前年度の売上の未回収分としたらどうなりますか?」

「どうなるって・・・あ、そうか。P/L上の売上は前年度ですから今年度には関係ない訳ですね。そうすると、今年度の売上に関する売掛金だけをマイナスするんですかねえ。難しくなってきました」

「売掛金や買掛金、そして手形についても常に動いていますから、もっと簡単に考えていいんです。つまり、前年度末の売掛金に対して、今年度末の売掛金総額が増えていたら、その差額を未回収分としてマイナスすればいいんです。逆に、減っていたら差額は回収が進んだ分としてキャッシュのプラスになります。考え方はわかりますか?」

「ああ、なるほど。売掛金だけのキャッシュの動きからすると、今年度末の合計から前年度末の合計を引くと、結果的に、今年度の売掛金の増減になる訳ですね。考えすぎでした」

「他も同じように前年度との増減をキャッシュの増減として、プラス・マイナスすると言うことですね。さて、他にも、キャッシュの変動がずれてしまうものがありますが、わかりますか?」

「他にもあるんですか。うーん。流動資産としてある棚卸資産は未だ売れている訳ではないですから損益計算書に関係ないですよね。うーん、何だろう」

「その棚卸資産ですよ」

「え、でも、まだ売上になってないですよね」

「そうですね。でも、製造業で考えてみると分かりやすいかもしれませんね。たとえば、自動車1台がほとんどできあがっているけれど、まだ販売前ということで棚卸資産として処理されたとしますね。この時、その額はどう算定されると思いますか?」

「ええっと。そこまでかかった費用ということですよね」

「そうです。材料費や人件費などを集計します。するとそこにキャッシュが隠れていませんか?」

「キャッシュが出て行ってますね。そうか。売上は上がらないけど、コストはここに入ってます。あ、そうすると、実際にはキャッシュが減っていると言うことですね。あ、そうですね。これも前年度からの増減を見ればいいですね」

「そういうことです。昔はこの棚卸資産で利益操作をしていたことが発覚したなんて言う話も良く聞きました。そのためにも、キャッシュフロー計算書が必要になったのかもしれません」

「なーるほど。なかなか一筋縄じゃいかないですね」

「じゃあ、この辺でもう一杯いきますか?」

「ええ、お願いします。後で、復習するようにしますので、そろそろ鍋も準備してもらいたいですね」

「了解。大将、ちゃんこ2人前と船中八策をよろしく」

「はいよ。いやー、だんだん難しくなってきたねえ。仕事しながらじゃ、ついて行けませんね」

「大将も聞いてたんですか。注文と違うもの作ってないでしょうね」

「へへへ。ジンさん。そんな時は、棚卸資産にして利益が上がったように見せかけて誤魔化しますよ」

「大将。ちゃんと聞いてるじゃないですか。さすが」

「さあ、そろそろお酒のピッチも上げて、ウチのキャッシュフローに貢献してくださいね」

「参りました」

(まだ続く)


《1Point》
キャッシュフロー計算書のうち、営業活動キャッシュフローの計算についての説明となっています。

 文章では全部を説明していませんが、簡略化した計算式が以下の通りです。

(営業キャッシュフロー)=(税引前当期純利益)+(減価償却費)-(売上債権の増加額*)-(棚卸資産の増加額*)+(仕入債務の増加額*)-(法人税等支払額)

*印がついたものは、それぞれ前年度からの増額金額を使います。減額の場合は金額に(-)をつけて計算してください。それぞれ反転することになりますね。

 他のキャッシュフローはあまりややこしいところはないので、どこを見るかだけわかれば大丈夫です。次回か、次々回には簡単に説明します。

1)営業活動によるキャッシュフロー(営業キャッシュフロー)
2)設備投資によるキャッシュフロー(投資キャッシュフロー)
3)財務活動によるキャッシュフロー(財務キャッシュフロー)