居酒屋で経営知識

32.キャッシュ・フロー計算書(1)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「冬になると刺身も身が締まって感じますね」

「お、山口君も日本酒党らしく魚が好きそうだね」

「もちろんですよ。特に白身魚が好きですね。刺身でも、酢締めでも、鍋にも合いますからね」

「こりゃ本物だ。大将、常連候補が一人増えましたよ」

「ジンさん、もうチェック済みですって。ねえ、山口さん」

「ありがとうございます。ここの常連になれたらうれしいです。ただ、仙台へ帰りたくなくなってしまいますが」

「東京に出張してきた時に寄ってくれればいいんですよ。来る数より、常に心を連れて行ってもらうのが常連さんですからね」

「わかりました。よろしくお願いします」

 今日は、土佐の酒「船中八策」だ。

「ところで、ジンさん、財務諸表にキャッシュフロー計算書ってありますよね。現金の流れって言う意味だとは思うんですが、現金出納帳とは違いますよね」

「現金出納帳ね。決算書で使われるものだから、それとは違うんだけど、もちろん現金・預金といったお金の状態を表すことになるものだよ。ほら、損益計算書の売上の時期の疑問でもあったように、売上が上がったり、費用が計上されても、実際には実際のお金の出入りが先の約束になっていたりしますよね」

「そうでしたね。工事竣工して請求書を発行しても、客先の締め日や支払日の関係で、入金が数ヶ月後なんてこともありますからね」

「それを良く管理しないと黒字倒産などと言うことが起こるんですよ」

「良く聞きますよね。黒字なのに倒産なんて具体的にはどうしてなんでしょう」

「今までの話で想像してみると簡単ですよ。仕事がたくさん取れて、利益率も良かったとしましょう。そうすると、売上が上がってくると利益がいいので、どんどん黒字になります。決算時には、大幅黒字となりましたが、ボーナスを払おうと思ったら支払う現金がなく、気づくと、不渡りが連続して倒産してしまったという話があったとしたら何が原因だと思いますか?」

「あ、そうか。売上が上がっても、入金がずっと先になっていては、銀行にお金が入りませんね。ただ、払うお金は月給をはじめ、日々の出費もあるし、原価となる業者への支払いが早めになっていれば、いくら利益率が高くても、銀行口座は減っていく一方ですね。原価は売上に連動して損益計算書に計上されるので、業者への支払いが発生しても利益計算では考慮されないですね」

「そういうことですね。一生懸命営業活動して、お客様の便宜のために代金受領を遅くしている会社があったとします。いい仕事をする優良な業者を確保するために、業者への支払いを早くしているとまさに黒字倒産の可能性があります。お客さんにとっても、下請け業者にとってもいい会社のはずなのに、倒産してしまえば、仕事は中断し、これまでのお客さんへのアフターサービスも、残った支払いも、さらに自分の従業員に対しても責任は果たせなくなってしまいます。これが、キャッシュフローに着目しなければいけない理由ですね」

「わかりました。でも、キャッシュフロー計算書は、作成するのが大変そうですね」

「実はそうでもないんです」

「え?」

「貸借対照表と損益計算書から計算できるんですよ」

「ええ~。想像がつかないですけど」

「簡単に言うと、現金の出入りと損益計算書作成時に入出金がずれているものを修正すればいいんです。その情報は、二つの財務諸表に網羅されています。貸借対照表は連続する二年分が必要ですがね」

「是非、その計算方法を教えてください」

「実際の計算方法は、ここじゃ難しいのでメールで送りますね。着目する項目だけ言っておきます。スタートは、損益計算書の税引前当期純利益です。まず、着目するのは、損益計算書の『減価償却費』です。減価償却費というのはわかりますよね」

「確か、機械設備などを購入した時、それをそのまま費用として計上しないで、何年かに亘って処理していくって聞きましたけど」

「そうですね。収益のために使われる設備とか建物は、長期に亘って収益に貢献するので、購入した年度だけですべて費用として計算しないというルールになっているんです。そうするとどうなるかというと、実際には購入時に全額支払った場合、キャッシュ上は、その全額が現金の減少になるけど、損益計算書上は全額が費用となっていないことになりますね。例えば、100万円の機械を購入して、10年間の均等法で処理したとすると、毎年10万円が、減価償却費として損益計算書上の費用として表示されることになるわけです」

「じゃあ、最初の年は100万円かかったのに、10万円しか費用化されないので、計算上の利益は90万円多くなるんですね。そうか。そうすると2年目からは10万円少なく計算されていると言うことですね」

「そうです。そのため、実際のキャッシュと損益計算書上の利益のギャップが生じるんです。次に、入金と支払いについても着目の必要がありますよね。これは、貸借対照表の売掛金・支払手形と買掛金・受取手形に注目するんだ」

「そうですね。それぞれ、入出金が未だの状態ですからね」

(まだ続く)


《1Point》
キャッシュフロー計算書

 今回説明が途中となっていますが、キャッシュフロー計算書
3つに区分されています。

1)営業活動によるキャッシュフロー(営業キャッシュフロー)
2)設備投資によるキャッシュフロー(投資キャッシュフロー)
3)財務活動によるキャッシュフロー(財務キャッシュフロー)

 営業キャッシュフローは本業でのキャッシュの流れ、投資キャッシュフローは将来への投資行動のキャッシュの流れ、財務キャッシュフローは借入と返済のキャッシュの流れ、と考えてください。

 詳細は、今後の説明に出てくるはずです。