イノベーションと企業家精神

(7)イノベーションと企業家精神 (ドラッカー名著集 5)
  企業家として成功するものは価値を創造し社会に貢献する
   第1部:イノベーションの方法
    第1章:イノベーションと企業家精神
    第2章:イノベーションのための七つの機会
    第3章:予期せぬ成功と失敗を利用する 第一の機会
    第4章:ギャップを探す 第二の機会
    第5章:ニーズを見つける 第三の機会
    第6章:産業構造の変化を知る 第四の機会
    第7章:人口構造の変化に着目する 第五の機会
    第8章:認識の変化をとらえる 第六の機会
    第9章:新しい知識を活用する 第七の機会
    第10章:アイデアによるイノベーション
    第11章:イノベーションの原理
  第2部:企業家精神
    第12章:企業家としてのマネジメント
    第13章:既存企業における企業家精神
    第14章:公的機関における企業家精神
    第15章:ベンチャーのマネジメント
  第3部:企業家戦略
    第16章:総力戦略
    第17章:ゲリラ戦略
    第18章:ニッチ戦略
    第19章:顧客創造戦略
    終 章:企業家社会
ドラッカーの言葉該当ページと独り言
企業家はリスクを冒す。だが経済活動に携わる者は誰でもリスクを冒す。なぜならば、経済活動の本質は現在の資源を将来の期待のために使うこと、すなわち不確実性とリスクにあるからである。P2
株主への説明責任があるから、コンプライアンス重視だから、とリスクを回避する態度が肯定され、リスクヘッジしたという書類が経営責任だと思ってやしないか。
意志決定の本質は不確実性にある。P3
経営者が意志決定を行う。
企業家精神の原理とは、変化を当然のこと、健全なこととすることである。P3
変化に脅威を感じる人が多い。
企業家の責務は「創造的破壊」なのである。P3
!!
企業家は変化を当然かつ健全なものとする。彼ら自身は、それらの変化を引き起こさないかもしれない。しかし、変化に対応し、変化を機会として利用する。これが企業家および企業家精神の定義である。P5
自分の中に企業家精神はあるだろうか。
企業家はイノベーションを行う。イノベーションは企業家に特有の道具である。イノベーションは富を創造する能力を資源に与える。それどころか、イノベーションが資源を創造する。P8
企業家に限らず、人間がここまでやってきたのは、そこにあるものを利用することを考えたからだと思う。あるだけでは何も生み出さない。
イノベーションの七つの機会
まず第一が予期せぬことの生起である
第二がギャップの存在である
第三がニーズの存在である
第四が産業構造の変化である
第五が人口構造の変化である
第六が認識の変化、すなわちものの見方、感じ方、考え方の変化である
第七が新しい知識の出現である
P16抜粋
これぞ、ドラッカーの整理。
これで自らの視点を見直してみるといかに機会を見ていないかがわかるのではないか。
予期せぬ成功ほど、イノベーションの機会となるものはない。これほどリスクが小さく苦労の少ないイノベーションはない。しかるに予期せぬ成功はほとんど無視される。困ったことに存在さえ否定される。P18
これだけ有名な言葉だが、実際には予期せぬと言うこと自体否定される。目先の原因を挙げ、終わったことは忘れ去られる。
予期せぬ成功をマネジメントが認めないのは、人間誰しも、長く続いてきたものが正常であって、永久に続くべきものと考えるからである。P20
それだけではないかもしれない。失敗は早めに片付け、成功は満遍なく誉めようという配慮が見えなくしてしまっている。
しかしマネジメントが報酬を支払われているのは、判断力に対してであって無謬性に対してではない。マネジメントは、自らの過誤を認め受け入れる能力に対しても報酬を支払われている。特にそれが機会に道を開くものであるとき、このことがいえる。だがこのことを理解している者は稀である。P22
まさしく稀だろうなあ。
予期せぬ成功は機会である。しかしそれは要求でもある。正面から真剣に取り上げられることを要求する。間に合わせではなく優秀な人材が取り組むことを要求する。マネジメントに対し、機会の大きさに見合う取り組みと支援を要求する。P31
要求に応えられないマネジメントは不要である。
予期せぬ失敗が要求することは、トップマネジメント自身が外へ出て、よく見、よく聞くことである。予期せぬ失敗は、常にイノベーションの機会の兆候としてとらえなければならない。トップ自らが真剣に受けとめなければならない。P36
予期せぬ失敗があったとき、責任者を糾弾し、再発防止策の書類作成に多くの能力が注ぎ込まれる。トップが納得してしまえば、完了となっている例しか思い出せない。言葉としてさえ、「機会」であるなんて聞いたことがない。
しかし、成功にせよ失敗にせよ、予期せぬことが起こったことを知るだけで、イノベーションの機会とするには十分である。P40
なぜ起こったかがわからなくてもイノベーションは行えると言っている。
多くの企業では、予期せぬことが起こったとき、予期できなかったことを問題視し、対症療法的に改善策を作るというPDCAサイクルを回して喜んでいると言えるわけだ。
したがって、外部の予期せぬ変化といえども、既存の能力の新たな展開の機会としてとらえなければならない。自らの事業の性格を変えてはならない。多角化ではなく展開でなければならない。P44
あくまでもコアコンピタンスを中心とした展開をすべしとのことだろう。
価値観ギャップの背後には、必ず傲慢と硬直、それに独断がある。P56
顧客にとっての価値や期待というものが、常に企業群が考えているものと違っている。その原因は価値観のギャップにある。だから、そのギャップに気づいた企業がイノベーションを行えるという内容だと理解した。
製品やサービスの目的は消費者の満足にある。この当然のことを理解していれば、プロセス・ギャップをイノベーションの機会として利用することは容易であり、しかも効果的だった。P60
内部の者にとっては常に感じていることでも、外部からはわからない。ところが、何かを行うプロセスの中に常に不便を感じているものを見つけ出せれば、イノベーションの機会となるという。
ニーズに基づくイノベーションには三つの条件がある。
第一に、何がニーズであるかが明確にされていることである。
第二に、イノベーションに必要な知識が手に入ることである。
第三に、問題の解決策がそれを使う者の仕事の方法や価値観に一致していることである。
P69~70抜粋
イノベーションを行おうとするとき、特に第三の問題が壁となるかもしれない。
産業構造の変化をとらえるイノベーションが成功するには、一つだけ重要な条件がある。単純でなければならないということである。複雑なものはうまくいかない。P89
単純なものが成功する、とはありがたいことだが、リスクを考え出すと複雑化してしまうのかもしれない。
知識によるイノベーションの第一の特徴は、リードタイムが長いことである。新しい知識が出現してから技術として応用できるようになるには長いリードタイムを必要とする。市場において製品やサービスとするにはさらに長いリードタイムを必要とする。P116
七つめの機会である。時間がかかるところに特徴がある。
知識に基づくイノベーションの第二の特徴、しかもその際立った特徴は、それが科学や技術以外の知識を含め、いくつかの異なる知識の結合によって行われることである。P123
知識は一つだけではなく、複数の知識を結合することによってイノベーションとなるということだ。要素技術をいかに組み合わせるかがもう一つの知識となる。
必要な知識のすべてが用意されない限り、知識によるイノベーションは時期尚早であって、失敗は必然である。P127
早すぎても遅すぎてもいけない典型なのだろう。早すぎた例は後から分析すると結構出てくる。
知識によるイノベーションの条件
(1)分析の必要性
 分析を行わなければ、欠落している知識が何かはわからない。したがって分析を行わないことは失敗を運命づけるに等しい。

 科学者や技術者は自分がすべてを知っていると思いこんでいる。そのためそれらの分析を行おうとしない。知識による偉大なイノベーションの多くが、科学者や技術者よりも素人を父としあるいは少なくとも祖父とする結果になっているのはこのためである。
P129~131抜粋
確かに思いこみがあるのかもしれない。
知識によるイノベーションの条件
(2)戦略を持つ必要性
 知識によるイノベーションには三つの戦略しかない。
 1)システム全体を自ら開発し、それをすべて手に入れる戦略
 2)システム全体ではなく市場だけを確保しようとする戦略
 3)戦略的に重要な能力に力を集中し、重点を占拠する戦略
P132~133抜粋
これらのどれを使うかを明確にしなければ致命的なリスクを負う。
知識によるイノベーションの条件
(3)マネジメントの必要性
 新しい知識によるイノベーションが失敗するのは企業家自身に原因がある。
P135
まず最初に、いまにもイノベーションが起こりそうでありながらも何も起こらないと言う期間が長期にわたって続く。そして突然爆発が起こる。数年にわたる開放期が始まり、興奮と乱立が見られ脚光が当てられる。五年後には整理期が始まりわずかだけが生き残る。P136
厳しい。これが、知識によるイノベーション特有のリスクだと言っている。
選択の道はない。知識によるイノベーションを行うのならば、それが受け入れられるかどうかについては賭けてみるしか道はない。P149
市場調査も権威の意見も役に立たないと切って捨てる。それどころか、有害であると。
アイデアはイノベーションの機会としてはリスクが大きい。成功する確率は最も小さく、失敗する確率は最も大きい。P151
実はこの言葉は衝撃だった。なぜなら、多くの新規事業・起業のマニュアルの多くはアイディアの創出をスタートにしているからだ。なんとラスベガスのスロットマシーンと同等だという評価だ。
イノベーションの条件
第一に、イノベーションを行うには機会を分析することから始めなければならない。
第二に、イノベーションとは、理論的な分析であるとともに知覚的な認識である。イノベーションを行うにあたっては、外に出て、見て、問い、聞かなければならない。
第三に、イノベーションに成功するには焦点を絞り単純なものにしなければならない。一つのことに集中しなければならない。
第四に、イノベーションに成功するには小さくスタートしなければならない。
P157~158抜粋
ここにイノベーションのなすべきことが整理された。
イノベーションの3つの「べからず」
第一に、凝りすぎてはならない。イノベーションの成果は普通の人間が利用できるものでなければならない。
第二に、多角化してはならない。散漫になってはならない。一度に多くのことを行おうとしてはならない。
第三に、イノベーションを未来のために行ってはならない。現在のために行わなければならない。
P160抜粋
現在の普通の人々に向けて一つのことを行う。
単純にいうと、既存の企業は既存の事業をマネジメントする方法は知っているが、いかに企業家たるべきか、いかにイノベーションを行うべきかを知らない。P166
企業家のための手引きである。
・昔から、大企業はイノベーションを生まないという。確かにそのように見える。今世紀の大きなイノベーションは既存の大企業からは生まれなかった。
・しかし、大企業はイノベーションを行わず、行うこともできないという通年は半分も事実ではない。全くの誤解である。まず多くの例外がある。企業家としてイノベーションに成功した大企業の例は多い。
P170~171抜粋
大企業だからではなく、大企業の持つ体質がイノベーションから遠ざからせているのであろう。その悪弊を絶ちきった大企業が達成した成果だと思う。
企業家精神には四つの条件がある。
 第一に、イノベーションを受け入れ、変化を脅威でなく機会とみなす組織をつくりあげなければならない。企業家として厳しい仕事を遂行できる組織をつくらなければならない。そして、企業家的な環境を整えるための経営政策と具体的な方策のいくつかを実践しなければならない。
 第二に、イノベーションの成果を体系的に測定しなければならない。あるいは少なくとも評価しなければならない。
 第三に、組織、人事、報酬について特別の措置を講じなければならない。
 第四に、いくつかのタブーを理解しなければならない。行ってはならないことを知らなければならない。
P174
あなたが経営者ならこの4つの条件に自分でやっていることを回答してみてください。
イノベーションを異質なものとしていたのでは何も起こらない。P175
イノベーションという言葉が、それだけで大層なもの、コンサルタントが使う言葉などと思っていては何も起こらないでしょう。
イノベーションを行うには、イノベーションに挑戦できる最高の人材を自由にしておかなければならない。同時に、資金を投入できるようにしておかなければならない。いずれも、過去の成功や失敗、特に惜しくも失敗したものや、うまくいったはずのものを廃棄しない限り不可能である。P177
人のマネージメントが第一であり、金のマネージメントがついていかなければいけない。
既存の企業が企業家精神を発揮するには、自らの製品とサービスが競争相手に陳腐化させられるのを待たず、自ら進んで陳腐化させていかなければならない。P180
市場に製品が並んだら、次の製品を開発しなければいけない。日々が新たな挑戦。
だが、イノベーションを行うのは人である。人は組織の中で働く。したがってイノベーションを行うには、そこに働く一人ひとりが企業家になれる構造が必要である。企業家精神を中心に諸々の関係を構築しなければならない。さらには、報酬、報奨、人事を企業家精神に報いるものにし、企業家精神を阻害するものにしてはならない。P188
大企業の問題は、次第に「人」が役職でしかなくなってしまうことかもしれない。役職が仕事をするのではなく、その人の思いや経験が仕事をする。
加えて報酬の問題がある。成人になっている事業では機能する報酬システムが、赤ん坊を殺すことがある。それでいながら、特に中核的な人材への適切な報酬とならないことがある。今日大企業で人気のある資産収益率や投資収益率に連動させた報酬システムは新事業にとっては障害となる。P192
カンパニー制でのカンパニー業績連動給などを考えると、確かに、金のなる木ばかりを育てていた方が良いという判断になる。その利益を問題児に投資するという基本的な戦略は立てられない。
最も重要なタブーは管理的な部門と企業家的な部門を一緒にすることである。企業家的な部門を既存の管理的な部門のもとに置いてはならない。既存の事業の運営、利用、最適化を担当している人たちにイノベーションを任せてはならない。P204
多くの企業で、管理的な部門で新規事業も一手に引き受けているのが現状ではないだろうか。
最後に、ベンチャーを買収することによって企業家的になろうとしてはならない。P206
ドラッカーは買収はうまくいかないと言っている。M&Aではイノベーションは無理。
公的機関において、イノベーションと企業家精神を阻害するのは公的機関そのものに内在する固有の力学である。P209
官僚的な組織は、人の入れ替えでは解決しないという。公的な機関だけでなく、官僚化した大企業も同じだろう。
公的機関の企業家原理
第一に、公的機関は明確な目的をもたなければならない。
第二に、公的機関は実現可能な目標を持たなければならない。
第三に、公的機関は、いつになっても目標を達成することができなければ、目標そのものが間違っていたか、あるいは少なくとも目標の定義の仕方が間違っていた可能性のあることを認めなければならない。
第四に、公的機関は、機会の追求を自らの活動に組み込んでおかなければならない。
P214~P216抜粋
既存の組織にとって企業家精神の障害となるものは既存の事業である。ベンチャーにとって企業家精神の障害となるものは既存の事業の欠落である。P221
ベンチャー企業にとっては、マネジメントにポイントがある。
ベンチャーが成功するには四つの原則がある。
第一に市場に焦点を合わせること、
第二に財務上の見通し、特にキャッシュフローと資金について計画をもつこと、
第三にトップマネジメントのチームをそれが実際に必要となるずっと前から用意しておくこと。
第四に、創業者たる企業家自身が自らの役割、責任、位置づけについて決断することである。
P222
ベンチャーは予期せぬ結果に備えることが一番重要である。なぜなら、成功の秘訣は、予想しなかったところにあるからだ。そう言っているのだろう。
イノベーションを行う者自身の視野は狭くなりがちである。狭窄症とさえいってもよいかもしれない。自分が知っている世界しか見えない。外の世界が見えない。P224
実はイノベーションが市場に出るためには、偶然が必要なのかもしれない。ただ、その偶然を受け入れられる柔軟さをマネジメントが持っていなければ市場に出ることはない。
マネジメントの教科書はこのような問題の解決策として市場調査を教える。しかし間違った処方である。新しいものについては市場調査をすることはできない。市場に出ていないものを市場で調査することは不可能である。P225
市場調査をすればするほど、予測できないことから目を背けることになる。予測できないことが起こったことを認めなくなる。
したがって、ベンチャーは自らの製品やサービスが、思いもしなかった市場で思いもしなかった使われ方のために、馴染みのない素人の客によって買われることがあっても当然との前提で事業をスタートさせなければならない。P226
したがって、こういうことだ。
予期せぬ市場からの予期せぬ関心が本当の可能性なのか、それとも好奇心にすぎないのかを見分けるには、さしてコストはかからない。若干の感受性と体系的な作業が必要なだけである。外へ出て見ればよい。市場にでて、客や営業マンとともに時間を過ごし、見て、聞けばよい。P228
多くの企業でできないことがこれだろう。偉くなってしまった経営層の方々は個室にこもり、設定されたスケジュールで同格の経営者にしか会わなくなる。
だがそのためには、製品やサービスの意味を決めるのは客であって生産者ではないことを常に思い起こす仕組みをつくっておかなければならない。製品やサービスが客に提供する効用や価値についてたえず疑問を投げかけなければならない。P228
メーカーは往々にして技術に溺れる。品質・コスト・納期だけが利益をもたらすと思ってしまう。
企業は客のニーズを満足させることによって対価を得る。P228
この言葉に集約されていると思う。
あらゆる組織に共通する重要な活動は二つしかない。人のマネジメントと資金のマネジメントである。P236
彼らは、「何をしたいか」から考える。あるいは、「自らは何に向いているか」を考えるのがせいぜいである。しかし、問うべき正しい問いは、「客観的に見て、今後事業にとって重要なことは何か」である。創業者たる企業家は、この問いを、事業が大きく伸びたとき、さらには製品、サービス、市場、あるいは必要とする人材が大きく変わったとき、必ず自問しなければならない。P239
常に自問すべし。
企業家戦略には四つある。総力戦略、ゲリラ戦略、ニッチ戦略、顧客創造戦略である。P248
リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロアーという市場地位別戦略に似ていると思った。が、フォロアーという考え方はない。