38.長期安全性分析
(前回まで:財務諸表分析のうち、短期安全性の説明をしました。流動比率、当座比率が代表的指標でした)
久しぶりに常連で飲んでいるのだが、最近の傾向で、常に経営知識講座となってしまう。個人的には、酒と肴のマッチングに集中したいのだが。
「短期安全性の次は、長期があるわけだな」
雄二が情け容赦なく次を要求してきた。
「その前に、自家製しめ鯖を食べさせてくれよ」
「仕方がない、俺も食うか」
仕方がないは無いだろう、と思いながらも、あっさりしたしめ鯖に舌鼓を打つために放っておいた。
「大将の作るしめ鯖はすっきりしていておいしいですね。純米吟醸でやりたいですね」
「そうですねえ。四季桜の純米吟醸が爽やかでいいんじゃないでしょうか」
「それいきます。雄二もどうだ」
「待ってました。大将とジンのおすすめならば間違いないだろう」
ピンク色のラベルには桜が描かれている。花見をしているようだ。
「それじゃ、続きといくか」
由美ちゃんが奥のお客さんの注文を早々に片付けて、ちょこんと座ったのを見計らって始めることにした。
「長期安全性分析だけど、これも貸借対照表で見ることができるんだ。一般的な指標としては、固定比率と固定長期適合率を押さえておけばいいだろう。
・固定比率(%)=(固定資産/株主資本)×100
・固定長期適合率(%)=(固定資産/株主資本+固定負債)
×100
という公式になる。両方とも固定資産を分子に置いてあると言うことでわかると思うけど、固定資産というのは回収に長期間を要するので、できるだけ安定した資金で賄っている必要があると言う考え方だ」
「固定資産というと土地とか建物のことよね」
「そうだね。メーカーなどだと機械設備が大きなウェイトをしめるので、特に、どの程度を自己資金で賄っているかが重要だね。固定比率は、100%未満が理想と言えるだろう。株主資本というのは、つまりは返済義務が無い資金だから、この範囲で設備投資ができれば安全性は長期にわたって高いと言えるんだ」
「この例だと、固定資産196で、株主資本(自己資本)132だから固定比率は148%になってるわ。危険ということね」
「機械設備が大きいようだから、メーカーの事例なんだろうね。大型設備を必要とするメーカーだとどうしても株主資本だけでは投資が抑えられないことも多い。その場合、固定長期適合率を見るといいんだ。株主資本だけでは賄えないので、長期借入金などを投入することになる。そうするとどうだい?」
「えーっと。固定負債が145あるから、(196/277)×100=70%になるわ。これなら、とりあえずOKということでいいのね」
「その例の場合、長期借入金が増えた分で機械設備を購入したようだね。たぶん、新規設備を増強して、攻めの営業を考えた投資だと見ることができる」
雄二も用紙に数字を写して計算し直している。
「OK。これで、安全性はばっちりだ。後は何があったっけ?」
「収益性や生産性がある。でも、もう少し飲ませてもらっていいか・・・」
「あ、ジンさん。お客さんが来たみたいだから、しばらく休んでいていいわよ」
「オイオイ。俺も客なんだけど・・・」
(続く)
《1Point》
・長期安全性分析
財務諸表分析のうちの安全性分析の一つ。貸借対照表から長期の安全性を測定する指標。
・固定比率(%)=(固定資産/株主資本)×100
・固定長期適合率(%)=(固定資産/株主資本+固定負債)×100
H18年の新会社法施行によって、それまで「資本の部」が「純資産の部」になりましたが、未だに自己資本や資本の部合計と書いてあるテキストが多いため、混乱している方もいるようです。
試験では、その辺は簡略化していると思いますので間違いが無いとは思いますが、分母は「株主資本」と読み替えておいた方がいいようです。(「純資産の部」がすべて株主資本の場合もあります)
事例を見ると、固定比率は100%を越えていることが多いようですので、その場合、必ず、固定長期適合率を計算し、100%を越えていないことを確認しましょう。
これが100%を越えている場合は、まずは危険と判断できます。
その場合の対策として考えられるのは、
・不要と思われる長期保有の有価証券を売却する(借入金を返済できる)
・遊休資産がないか確認する。良くあるのは、使っていない土地や倉庫などです。(売却や活用を検討する)
・短期借入金を長期借入金に借り換えする。
・新規株式の発行や社債の発行
などです。
要は、分子を圧縮するか、分母を増やすという改善提案を考えればわかりやすいと思います。
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